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柴山全慶エスペラント訳『十牛図』(La Dek Bildoj de Bovpaŝtado)

山本 修

原本は中国仏教の『十牛図』で、「禅」の悟りへの道を10の段階に分け、牛を探す10枚の絵を使って説明しています。原作者は12世紀の宋の廓庵(かくあん)禅師。エスペラントに翻訳した柴山慶は、のちに臨済宗南禅寺派の管長を務めた柴山全慶老師(1894-1974)。1931年に日本仏教エスペランチスト連盟(Japana Budhana Ligo Esperantista)を創設された大先輩です。

初版は1930年。今回の再版に際して、原文の序(漢文要旨)と頌(漢詩)、さらにその読み下し文が追加されています。

各図は次の通りで、「牛」は「悟り」を意味しています。

現代は激動の時代で、ゆっくり自分のことを考える余裕がなく、考えようと思っても、今度は情報の洪水でどう考えたらいいか分からず迷ってしまいます。しかし自分の真相を知ることはとても大事です(第1図)。「悟る」というと何か神秘的な境地にたどり着くというイメージがありますがそうではありません。現状のままで問題ないと気づくことです(第9図)。赤ちゃんや幼児は、自我意識もなく現状肯定ですから平和です。ところが成長し物心が付くころから自我意識が芽生え、以後自我の見解で生活をするようになります。したがって、味がする、物が見える、音が聞こえる、といった当たり前のことには無関心です。しかし、われわれは当たり前のことで生活ができているのを忘れてしまいます。自我意識は強烈で、今まで一生懸命育ててきたものですからなかなか離れることが難しい。牛は第3図で見つかったのに、見つけた人が消えるのは第8図です。最後の第10図は、町へ行き人々を救う、で終わっています。「自我から離れると楽になる」というのがこの『十牛図』の教えです。

最近は、仏教に関心がある人が増えています。このような時、『十牛図』のエスペラント訳が再版されたことは大変うれしいことです。


初出 LaMovado776号(2015年10月、関西エスペラント連盟)編集部から許可を得て転載

本書データ/2015年新版、53p;サイズA5判;出版社:日本エスペラント図書刊行会、400円


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