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室謙二『非アメリカを生きる - 〈複数文化〉の国で』

私が仏教に帰依することになったのは、室謙二著『アメリカで仏教を学ぶ』(平凡社新書)が2013年8月に出版されてすぐ読んだのがきっかけであった。それまでは仏教には深い関心はなかったのだが、ちょうど人間関係で悩んでいたときだったので、苦しみを見据え、怒りを去り、苦しみからの脱出の道を理性的に説く仏陀の教えに出会えたことは、幸運であった。著者が1946年生まれで、学生時代からベトナム反戦運動に参加したという、同じ団塊世代としての共感からこの本を手に取っただけなのであるが、「一期一会」というべきだろう。

先日、同じ著者がその1年前に岩波新書で出していた『非アメリカを生きる』を本屋で立ち読みしたところ、ここにもすでにアメリカ仏教への言及があったので、今回はこれを紹介する。

本書は、アメリカ合州国という複数文化の大国の中で、少数派としての矜持を貫いた人々をレポートして、文化のありかたを問い返そうというものである。レポートされているのは、最後のインディアン「イシ」、ジャック白井などスペイン戦争に市民義勇兵として参加した人たち、ジャズのスターから出てジャズを突き抜けたマイルス・デーヴィス、差別に抗して文化をまもるユダヤ人たち、そして、サンフランシスコでビートたちに禅を広めた鈴木俊隆師とゲイリー・スナイダーである。

1959年に鈴木師がサンフランシスコの日本人町に来た時、日本でもアメリカでも、アメリカの白人が禅の修行を始めるとは、誰も予想できなかった。しかし、彼のアメリカ仏教への影響力は、その没後四十年を経った今も絶大だという。独立宣言と憲法に代表されるアメリカ民主主義の伝統と結びつき、ソローの森の生活に代表されるエコロジーの伝統とも結びつき、そして何よりも口語英語で語られるアメリカ仏教が切り拓いた新しい文化が、ここに活写されている。

この本で語られるエピソードを熟読玩味すると、私たちの仏教エスペラント運動がこれからどんな未来を切り拓いていくのかを考えるための多くのヒントが得られると思う。

2016年5月15日 牧野 哲

本書データ/2012年;岩波書店

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